池袋建築巡礼05:「落水荘」思わす婦人之友社ビル、F.L.ライト直伝・遠藤楽が設計

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 「池袋」「フランク・ロイド・ライト」といったら、思い浮かぶのは「自由学園明日館」(1921年、国指定重要文化財)だろう。我がOffice Bungaの事務所から徒歩十数分の住宅街にある“池袋の宝”だ。その南東側にライト風のオフィスビルがあるのをご存じだろうか。自由学園の講堂(設計:遠藤新)ではない。それは南西側。明日館を背にして左手の方にある3階建てのオフィスビルが今回の巡礼地だ。婦人之友社の本社ビルである。

(写真:宮沢洋、以下も)

 このビルがずっと気になっていた。婦人之友社は自由学園の創立者である羽仁もと子、羽仁吉一夫妻が1903年に創業した出版社。これも、ライトの弟子である遠藤新(1889~1951年)の設計だろうか…。だが、そこまで古いものには見えない。では、自由学園に近いことを配慮したどこかの設計者がライトっぽくデザインしたのだろうか…。

 そんなぼんやりした関心のまま日々が過ぎていたなか、昨年、NHKの朝ドラ(連続テレビ小説)「なつぞら」でこの建物の外観が何度も映り、これは池袋民としてちゃんと調べなければと思い立った。ちなみに、「なつぞら」は女優の広瀬すずがアニメーター・奥原なつを演じたドラマで、この建物の外観がアニメ制作会社「東洋動画スタジオ」の社屋として使われた。

 ネットなどで調べてみると、婦人之友社の設計者は遠藤楽(らく)、竣工は1963年と分かった。遠藤楽(1927~2003年)は、遠藤新(あらた)の次男で、父親の新が亡くなった後の1957年から58年にかけて、米国ウィスコンシン州のタリアセン(ライトのアトリエ) で学んだ。つまり、親子二代でライトに師事したわけだ。

 婦人之友社がライトっぽく見える要因の1つは、外壁に層を成す大きな豆腐のようなボリュームが、ライトの「落水荘」を思わせるからではないか。薄いベージュ色の仕上げ、下端の丸み、そしてよく見ると、上階ほど微妙にせり出しているのが分かる。窓枠のY字は、ライトの「モスバーグ邸」の窓を思わせる。

 遠藤楽の没後に発刊された作品集「楽しく建てる」に、この建物が載っていた。そこにある彼の文章の一部を引用する。

自由学園から)独立しているために敷地には一線を画しながらもやはり兄弟の関係は変わりなく続いている。だからこの建物は事実、きりはなされながらもつながりを持たねばならないという難しい条件を課せられたのである。私はここで40年前のライトさんの傑作を真似ようとは思わなかった。用途も違い構造も違い、そして時代も違うのである。要するにそれぞれの目的に従って正しくすること、だたそれだけが、この相隣関係をそこなわぬ方法なのである。

 なるほど、本人は真似る意識は全くなかったと。それでも、ライト仕込みのデザインがしみ出してくるのだろう。

明日館が窓から見える応接室

 今回、婦人之友社の方の了解を得て、特別に中を拝見させていただいた。エントランスホールから奥へ進むと、応接室がある。

 応接室(下の写真)。ここで雑誌の座談会や対談なども行うという。何て絵になるスペース。うらやましい。

 応接室のコーナー部はガラスのつき合わせで、明日館がよく見える。これは、明日館を遮らないために、柱を内側に立てたのだろう。

作品集にも載っていなかった3階多目的室

 3階も見せてくれるというので、階段で上に向かう。踊り場のステンドグラスにうっとり。

 そして、作品集にも載っていなかった3階の多目的室へ。スチールの窓枠が美しい!!

 コーナー部分を透明に見せるため、柱がかなり内側に立っていることにも注目。片持ちになっている部分に、打ち合わせコーナーが1つできてしまうのにびっくりだ(下の写真)。

 大胆な構造だが、東日本大震災後も支障なく使っているという。かなり骨太につくられているようだ。

 作品集には遠藤楽のこんな言葉も載っている。

 街に続々と建てられているビルディングの大半は事務所建築である。そしてそのほとんどが青白い四角な箱と細長い廊下の組み合わせである。(中略)機械が働く工場ならともかく、人間の仕事場は自ずと違わなくてはならないはずである。(中略)ただスペースをつくってその中にいかに人間を配置するかという考え方ではなく、創造を仕事とするのにふさわしい空間と雰囲気を作るということである。

 うーん、出版社に限らず、世の中のすべての経営者の人に聴いてほしい!

 内部見学は対応していないが、明日館を訪れたときには、外からだけでもそのデザインを堪能してほしい。(宮沢洋)

婦人之友社
設計:遠藤楽
施工:大明建設
竣工:1963年
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地下1階・地上3階
延べ面積:1076.49㎡

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